技術、事務の現場
3つのプロジェクトにおける、それぞれのミッション、使命におけるJAPEX社員の挑戦と活躍をまとめたプロジェクトストーリーをご紹介します。
岩船沖油ガス田
1,900m層追加開発
プロジェクト
Iwafune-Oki Project
01
国内唯一の洋上プラットフォームを舞台に展開された、既存油ガス田の価値最大化へのチャレンジとなる、原油増産を目指す追加開発。それは荒れる日本海の海底下1,900mのターゲットへ“針の穴を通す”とも言える難作業だった。
杉田 史弥
Fumiya Sugita
国内事業本部 探鉱開発部
2010年入社/理工学部卒
澤田 大毅
Taiki Sawada
国内事業本部 探鉱開発部
2009年入社/生命環境科学研究科修了
清水 崇
Takashi Shimizu
国内事業本部 操業部
2006年入社/工学資源学研究科地球資源学専攻修了
深井 由佳里
Yukari Fukai
資材部
2016年入社/外国語学部卒
※取材当時の配属部署になります。
技術篇
Technical
事務篇
Administrative
国内で唯一生産中の
海洋油ガス田をその手で支える
新潟県胎内市の胎内川の河口沖合約4kmの洋上。国内唯一の洋上プラットフォームである岩船沖油ガス田の石油・天然ガスの生産操業管理業務に携わっていた杉田史弥は、順調に生産を続けている様を、誇らしい思いで見つめながら、”岩船沖ガス田にはまだまだ多くの油ガスが開発されずに眠っているはずだ。”と確信していた。同時に”自分たちの新しいアイデアと工夫で、もっとたくさん取り出すことはできないものかーー”。強い想いとは裏腹に具体策を実行に移すことができず、苦悩の日々が続いた。
そんな想いに応えるように、杉田のもとに1,900m層追加開発プロジェクト発足の一報が届いたのは、杉田が操業現場を離れて本社へ異動となった、2015年末のことであった。
国内最大級の油ガス田である岩船沖油ガス田は、1983年に発見され、1990年に商業生産を開始。その後、順調に生産を継続してきたが、価値最大化を目的とした検討チームが2014年ごろから動き始めていた。当時、杉田はこの検討チームに貯留層エンジニアとして参加。担当した貯留層評価では、地下のイメージを貯留層モデルとして構築した後、シミュレーション・残存ポテンシャル評価を実施。その評価結果をもとに、新たに坑井を掘削し、油ガスを生産・回収すべきという提案を行っていた。その後、経営陣を含め社内で検討が重ねられ、プロジェクトチームが正式に発足することになった。
杉田の胸には「よし、決まった」という新しいチャレンジへの興奮とともに「果たして評価したとおりの油が生産できるだろうか」という一抹の不安もあった。評価自体には自信があったが、一方、その評価が正しいかどうかは、実際に掘削してみないとわからないことも事実。そんな不安から逃れられないのは、見えない地下を見通すことを求められる“貯留層エンジニア”の宿命のようなものだ。
Chapter 01
冬の日本海が
牙を向いて襲いかかる
杉田同様、新人時代に岩船沖油ガス田の生産操業現場で汗を流した経験を持つのが、掘削の実行部隊としてチームを率いることになった清水崇だった。かつて共に仕事をしたことがあるメンバーとの再会を楽しみに新潟の陸上事務所へ赴いた清水は、この追加開発プロジェクトで初めて部下を抱えて業務を遂行するというミッションを担うことになった。当時、清水は36歳。部下も平均年齢が30代前半という若いメンバーで構成されたチームである。掘削作業のみならず、経験の浅いメンバーを率いてのマネジメントという新たな業務へのチャレンジにも向き合うことになったのだ。
掘削作業開始後に清水を特に苦しめたのが、厳冬期を迎えて大荒れする日本海だった。
まずは、掘削に必要な資機材をサプライボートで陸上から海上プラットフォームに運搬しなくてはならない。これらの資機材は東京本社の資材部で深井由佳里が、サプライヤーとの厳しい交渉を経て、ぎりぎりのタイミングで調達したものだった。だが冬の日本海の荒波は、サプライボートの航行さえ拒んでしまうこともあった。清水はそのたびに資機材の運搬計画を変更。工期、予算をにらみつつ、最も安全かつ最適な段取りを組んで作業を遂行していった。また、掘削作業は24時間体制で進められていたため、陸上でその管理に当たる清水は緊急事態の発生に備えて電話が手離せなかった。プラットフォーム上で急病人が発生したときは、ただちにドクターヘリを手配して搬送を依頼するなど、その迅速かつ的確な判断で事なきを得たこともあった。
Chapter 02
深度2500mへ向けて
針の穴を通す
この掘削作業で特に困難だったのが、狭い範囲に既に何本もの井戸が掘られている中を縫うように狙いをつけた地点に向けて、深度2,500mの新たな井戸を掘削しなければならないことだった。この難技を担当したのが、プラットフォームに乗船して坑井地質作業を指示した澤田大毅である。
「(掘削する井戸が)既存の井戸にぶつかれば、この追加開発プロジェクトは終わってしまう。しかも、準備期間は短い。絶対に失敗してはならない一発勝負だった」と澤田はそのプレッシャーについて振り返る。
貯留層エンジニアの杉田が、見えない地下を見通す難しさに苦しんだのと同様、地質担当の澤田も限られたデータから地下の状況を高い精度で予測することの困難さに直面していた。
やり直しが許されない状況の中、井戸を掘削しながら、実際の地質構造や貯留層砂岩の分布などが予測と異なっていた場合は、掘り進める方向などを修正しなければならない。実際、3度の修正を迫られる局面に出くわし、その都度、澤田は陸上事務所の清水らと相談し、事前に練ったプランを柔軟に変更していった。こうしたリアルタイムのデータ解析と地質解釈、坑跡プランの作成から掘削という流れこそ「“地質屋”にとって一番の醍醐味であり、エキサイティングなところ」と澤田は語る。
こうして掘削作業を進めた井戸は2,497mと、ほぼ予定通りの深度まで掘り進めた。既存の井戸にぶつかることなく、1,900m層油層のスイートスポットを400m以上にわたって掘り進む、まさしく針の穴を通すような正確さで掘削を成功させたのだった。
Chapter 03
届いたのは
想定を上回る朗報だった
こうして掘削された井戸は、原油の生産テストへ移る。そこで得られた結果は油量、圧力ともに想定を大幅に上回るものだった。陸上事務所でそれを聞いた清水はあまりに良い結果に耳を疑った。また、本社で報告を受けた杉田は「その瞬間、オフィスがざわついたのを覚えている」と振り返るとともに「貯留層エンジニアとしては事前の評価が間違ってなかったという“答え合わせ”ができたようなもの。加えて、その油層の状態が良く生産量が想定より多いのはうれしいサプライズだった。この瞬間が石油開発に携わる技術者にとって一番の醍醐味だ」と続ける。
この追加開発プロジェクトは、日本のエネルギー開発における重要な意味を持っている。国内の油ガス資源が少ない日本において、存在する油ガスを最大限活用することは我が国の重要な課題でもある。大規模な新規油ガス田発見を目指す取り組みに加え、今回の追加開発プロジェクトのような確度の高い開発は、国産エネルギー確保における有効な手段だ。こうした取り組みは、当社の経営理念でもある「国内へのエネルギーの安定供給」という使命を果たすことにも大きく貢献しているのだ。
Chapter 04
多くの油ガスが眠る
国内で唯一生産中の海洋油ガス田
新潟県胎内市の胎内川の河口沖合約4kmの洋上。国内唯一の洋上プラットフォームである岩船沖油ガス田の石油・天然ガスの生産操業管理業務に携わっていた杉田史弥は、順調に生産を続けている様を、誇らしい思いで見つめながら、”岩船沖ガス田にはまだまだ多くの油ガスが開発されずに眠っているはずだ。”と確信していた。同時に”自分たちの新しいアイデアと工夫で、もっとたくさん取り出すことはできないものかーー”。強い想いとは裏腹に具体策を実行に移すことができず、苦悩の日々が続いた。
そんな想いに応えるように、杉田のもとに1,900m層追加開発プロジェクト発足の一報が届いたのは、杉田が操業現場を離れて本社へ異動となった、2015年末のことであった。
国内最大級の油ガス田である岩船沖油ガス田は、1983年に発見され、1990年に商業生産を開始。その後、順調に生産を継続してきたが、価値最大化を目的とした検討チームが2014年ごろから動き始めていた。
当時、杉田はこの検討チームに貯留層エンジニアとして参加。担当した貯留層評価では、地下のイメージを貯留層モデルとして構築した後、シミュレーション・残存ポテンシャル評価を実施。その評価結果をもとに、新たに坑井を掘削し、油ガスを生産・回収すべきという提案を行っていた。その後、経営陣を含め社内で検討が重ねられ、プロジェクトチームが正式に発足することになった。
杉田の胸には「よし、決まった」という新しいチャレンジへの興奮とともに「果たして評価したとおりの油が生産できるだろうか」という一抹の不安もあった。評価自体には自信があったが、一方、その評価が正しいかどうかは、実際に掘削してみないとわからないことも事実。そんな不安から逃れられないのは、見えない地下を見通すことを求められる“貯留層エンジニア”の宿命のようなものだ。
Chapter 01
待ち受けていた
ドネゴシエション
今回の追加開発プロジェクトの正式発足に伴い、技術部門の作業計画に基づいて、資材部は掘削作業に必要な機材、消耗品、サービスの手配に着手した。まずは技術部門が作成した必要な各種サービスの仕様書内容を技術部門と一緒に確認しつつ、コントラクターに見積依頼をする。各社から見積書を受領し、価格や契約条文の内容を交渉し合意できたら契約が成立する。
ところが、このプロジェクトでは、この最初の段階で大きな壁にぶち当たってしまった。入社3年目にしてこの責任ある業務を任された深井由佳里が振り返る。
「私が契約を担当していた傾斜掘りという掘削方法に関するサービス(ここでいうサービスとは、井戸を掘削するための機材やエンジニアの提供)について、大手掘削会社複数社に打診をしたところ、全ての打診先に断られてしまったんです。通常の作業依頼ではあり得ないことでした」
理由は、依頼する掘削作業自体があまりに困難と予想されることだった。何本もの井戸が密集する中、周囲の井戸にぶつからないように深度2,500mまで掘削を進めていくのは極めて難しく、掘削会社にとってこの作業を請け負うにはあまりにリスクが高いという判断だったのである。
まさしく想定外の事態であり、本社資材部に異動して、これが初めての担当案件という深井にとってはあまりに大きな壁となった。
だが、現場から遠く離れた東京の本社に勤務しているとはいえ、深井もこのプロジェクトの一員である。岩船沖プラットフォームの上で機材の到着を待つ仲間たちに想いを馳せながら、深井はこの難局を打破するために立ち向かっていった。
Chapter 02
当たり前を
当たり前にするために
サービス提供会社と何とか契約にこぎ着けたのは、翌2018年10月末のことだった。技術部門に協力を仰ぎ、地層を掘る方向や軌道についての検討や変更を重ねたことで、ようやく1社から協力する意向であるとの返事をもらえたのである。綿密に練られたスケジュールにおける掘削開始予定は12月20日。機材を海外から輸送するには最低45日は必要であるため、まさにぎりぎりのタイミングだった。いつでも万全を期してプロジェクトに臨んでいる我々にとって、いかに今回のプロジェクトが難題だったのかを物語っている。
「通常ではあり得ないぐらい、契約から開始までの期間が短い状況でした。そこで契約締結後もサービス提供会社と密に連絡を取り、何とか間に合わせることができました」(深井)
新潟の陸上事務所で機材が届くのを首を長くして待っていたのは、掘削の実行部隊としてチームを率いる清水崇。何とか掘削開始日に間に合い、清水は胸をなで下ろした。
掘削現場にスケジュール通り機材が届くのは当たり前のことである、そう思っていた。しかし、今回は、その“当たり前”のことを実現するためにいつも以上に汗を流した仲間がいたことに「心から感謝している」と清水は語る。
ぎりぎり間に合った機材によって始まった掘削は、かつてない難作業だった。その最前線に立ったのが、プラットフォームに乗船して坑井地質作業を指示した澤田大毅である。「既存の井戸にぶつかった時点で、このプロジェクトは終わってしまう。しかも、準備期間は短い。絶対に失敗してはならない一発勝負だった」と、澤田。そんな最大級のプレッシャーのもとで掘り進められた井戸は2,500m。何本もある既存の井戸にぶつかることなく、まさしく針の穴を通すような正確さで、チームは掘削を成功に導いたのである。
Chapter 03
緻密な積み重ねが
巨大プロジェクトを支える
こうして掘削された井戸は、原油の生産テストへ移る。そこで得られた結果は油量、圧力ともに想定を大幅に上回るものだった。陸上事務所でそれを聞いた清水はあまりに良い結果に耳を疑った。また、本社で報告を受けた杉田は「その瞬間、オフィスがざわついたのを覚えている」と振り返るとともに「貯留層エンジニアとしては事前の評価が間違ってなかったという“答え合わせ”ができたようなもの。加えて、その油層の状態が良く生産量が想定より多いのはうれしいサプライズだった。この瞬間が石油開発に携わる技術者にとって一番の醍醐味だ」と続ける。
一方、深井は掘削作業の終了に伴い、コスト精算作業に追われた。サービス提供会社から毎月のように届く請求書の内容を細かくチェックしていた。請求書の額面合計が億単位を超える支払いであっても、1円単位で請求内容をチェックするのが資材担当者の仕事だ。それは、今回掘削した井戸が、わずかな狂いも許さない緻密なコントロールにより地中深くまで掘り進められていったことにも似ている。
この追加開発プロジェクトは、日本のエネルギー開発における重要な意味を持っている。国内の油ガス資源が少ない日本において、存在する油ガスを最大限活用することは我が国の重要な課題でもある。大規模な新規油ガス田発見を目指す取り組みに加え、今回の追加開発プロジェクトのような確度の高い開発は、国産エネルギー確保における有効な手段だ。こうした取り組みは、当社の経営理念でもある「国内へのエネルギーの安定供給」という使命を果たすことにも大きく貢献しているのだ。
Chapter 04